起業と士業(弁護士・司法書士・FPなど)
この記事では、「士業と呼ばれる専門家には、どのような種類があるのか」や「自分に必要な士業を、どうやって判断すれば良いのか解らない」といった質問に答えます。
起業を検討し始めると、これまで付き合った事もなかった「士業」と呼ばれる専門家の活用を検討する事になるでしょう。
この記事では、起業に関係する「士業の種類」を紹介し、その上で、「貴方の起業に本当に必要な士業」を見極める方法を紹介します。
士業についての基礎知識
日本では、様々な分野の専門家を国が認める制度があります。そして、その資格の多くが「~士」という名前になっている為、そうした資格を持ち、その分野で仕事をしている専門家のことを、「士業」と呼びます。
一般の方にも良く知られている士業としては、弁護士や税理士などがあります(その他の士業や、それぞれの士業の詳細については後述します)。
そして、これら士業の資格者になる為には、決められた試験に合格する必要があります(多くの士業資格には、試験以外にも様々な条件があります)。
また、資格がないと、「その分野の仕事を請け負ってはいけない」と法律で定められている事も少なくありません。ですので、ある分野の専門家が必要な場合には、その分野を担当する士業(~士)の活用を検討する事になります。
士業など専門家の活用は必須なのか
起業し、事業を行っていく上では、様々な専門分野が関係します。そして、その多くの分野について、前述の通り、士業と呼ばれる専門家が存在します。
では、その全ての分野の士業と契約しなければならないのでしょうか。
勿論、そんな事はありません。日本においては、「専門家を活用せず、自分の事業のことは自分で行う」という事が認められています。
貴方は、「貴方の起業にとって、本当に必要な士業」を見極め、その士業だけを活用する(それ以外の分野については、士業は活用しない)自由があります。
まず、その原則は理解しておいて下さい。
士業を活用しない場合のデメリット
とはいえ、多くの方は、起業にあたって、士業を活用されます。
専門家に頼まない場合、その分野に関する様々な手続きを自分で行う事になりますが、その場合、以下のようなデメリットがあります。
- 慣れない手続きの為に、時間が取られる
- 貴方自身が、その分野について勉強しなければならないケースも多い
- 手続きに失敗するかもしれない
そうしたデメリットを避けたければ、専門家に頼む事になります。
士業など専門家を活用した場合のデメリット
その一方、士業を活用するデメリットもあります。
その最たるものが、「コスト(費用)」です。これについては、説明の必要はないでしょう。
そして、その他にも、士業に頼むことで、以下のようなデメリットがあります。
- その分野についての知識を、貴方が身に付けられない
- 貴方が自分自身で行った場合、もっと良い処理が出来る可能性がある
詳細については、少し難しい内容になりますので、ここでの説明は省略します。まずは、「自分で出来る事は自分でやった方が、勉強にもなるし、良い結果が出る場合もある」という事だけを覚えておいて頂ければ十分です。
※士業など専門家に作業を丸投げした場合のデメリットについては、別記事にて解説しています。
意識され辛い士業の必要性とメリット
逆に、必要だと意識され辛い点ですが、士業を活用した方が良いケースも存在します。
それは、貴方の起業にとって重要なポイントに関して、士業から、「貴方が気づいていないリスクを指摘して貰う」ことや、「より成功に近づく為のアドバイスをして貰う」ことが可能な場合です。
これらの内容は、士業に頼まなくても、問題なく起業は実現出来ます。しかし、専門家は、やはり「専門家」なのです。貴方が気づきもしなかったようなアドバイスが貰える事も少なくないでしょう。
こうした「必要に迫られない」専門家の活用については、苦手とする人が多いのですが、専門家を高度に活用する事が出来れば、「より良い起業」「成功する起業」に近づく事が出来ます。貴方の起業にとって重要な部分については、積極的に士業を活用する事をお勧めします。
士業など専門家の種類一覧
ここからは、起業に関係する士業の種類を紹介していきましょう。
弁護士
法律の専門家です。事業開始後、訴訟が関係するような場合に関係を持つ人が多いでしょう。起業の手続きで弁護士が必要となるケースはかなり少ないです。ですから、起業の際に相談する人はあまりいないでしょう。
ただし、以下のケースにおいては、必須とは言えませんが、起業段階において弁護士を活用する事をお勧めします。
- 起業後、競合企業などに訴訟を起こされる事が想定される
- 法律や条例などに違反する可能性のある事業を始めようとしている
こうした場合、起業の準備段階で相談し、対策を練っておく事で、より良いかたちでの事業開始が可能となります。また、訴訟による損害や事業停止リスクを軽減させる事が可能となるでしょう。
税理士
税務に関する専門家です。税務申告を自分で行わない場合には、頼む事になるでしょう。また、起業に関する税務手続きも、頼む事が出来ます。
また、税務に関連する作業として、経理についても税理士に頼んでしまう人が少なくありません。経理・会計・税務といった用語が何を指すのかについては、ここでは省きますが、そうした数字関係を誰かに任せてしまいたいのであれば、真っ先に検討対象になる士業ではあります。
ただし、経理は事業の運営状態を把握する根幹です。丸投げしてしまうと、「自分の事業の事が、自分では理解出来ていない」という事にも繋がります。その点だけは、十分に気をつけて下さい。
司法書士
起業に関連した業務に限って言えば、「登記」という会社の内容を公的な帳簿に登録する手続きの専門家です。会社の設立を国に登録したり、会社の中身を変更した事を登録して貰ったりする手続きを頼む事が出来ます。その他、不動産関係の同様の手続きについても依頼する事が出来ます。
また、会社設立にあたり、法律的な観点で定めなければならない「会社の中身」を決める作業を司法書士に頼む人も少なくありません。
ただし、「会社の中身」は、その会社の運営と密接に関係しています。苦手意識がある人も多い分野ではありますが、自分でも出来る限り理解するようにはして下さい。
ファイナンシャル・プランナー(FP)
通常、FPと略されてしまいますので、~士と呼ばれませんが、ファイナンシャル・プランナー技能士という名称が国から与えられています。
比較的新しい資格ですので、FPを「起業に関係する専門家」として認識していない人も多いかもしれません。しかし、起業において、FPは、「(起業者個人の)金銭面・人生設計」に関係する専門家です。起業に必要な資金を貯めたり、起業によって家計が変化したり、といった点について相談する事が出来ます。
起業を成功させる上では、「創業者個人に関する不安を無くすこと」も大事な要素の一つです。こうした面で不安があるのであれば、相談を考えることになるでしょう。
ただし、ファイナンシャル・プランナー技能士という名前が一般的ではないこともあり、資格者ではないのにFPの業務を行っている人も少なくありません(資格者と名乗らなければ、FPに関する業務を行う事は違法ではありません)。
また、一般生活者向けの限られた分野に関する業務のみを行い、起業に関する相談を得意としないFPもいます。守備範囲の広い資格の一つですので、相談する相手は十分に選ぶ必要があります。
その他の士業・専門家
以上が起業に関する代表的な専門家ですが、その他にも、以下のような専門家が関係する可能性があります。それぞれの分野に関する専門知識が必要な場合には、活用を検討する事になるでしょう。
・弁理士(知的財産)
・行政書士(許認可など)
・公認会計士(監査)
・医師(労働安全衛生)
これらは一例です。専門分野ごとに、他にも様々な士業・専門家は存在します。
自分に必要な士業を決める方法
ここまで、様々な士業を見てきました。その知識を持って頂いた上で、「貴方が活用すべき専門家を見極める方法」をアドバイスしましょう。
士業など専門家の活用については、
- 貴方の事業の成否にとって「重要度が高い」分野については、専門家を活用する(それによって失敗を防ぎ、また、より高いレベルでの検討を行う)。
- 貴方の事業にとって重要ではない分野であって、専門家に頼んだ方が(自分で行うよりも)時間短縮などの観点で有益だと思える分野については、専門家に頼む(貴方の限られた時間を有意義に使う為に、専門家に任せる)。
- それ以外の分野については、貴方自身で行う事を原則とする(専門家には頼まない)。
- ただし、頑張っても自分だけでは出来ない(苦手とする)分野については、専門家に頼るしかない。
以上の方針で、判断する事をお勧めします。
士業選びを簡単にする為のアドバイス
士業選びへの専門家の活用
前述の方針で「自分に必要な専門家」が見極められた方は、それで問題ありません。
しかし、起業や事業運営に不慣れな方からは、「理屈は解ったが、実際に、それぞれの必要性の判断を行うのが難しい」といった意見も伺います。
そのような場合には、「自分に必要な専門家を判断する」という作業自体を、起業全般に詳しい専門家に相談するのがお勧めです。
起業に関する専門家であれば、「貴方の起業において、どんな知識や作業が必要になるか」や「それぞれの士業に、どんな事を頼めるのか」といった知識を持っています。
ですから、そのような専門家に相談すれば、
- 貴方の起業にとって、どの士業を活用するのが有益か
- 士業を活用しない場合、貴方自分で、どのような作業を行う事になるのか
- 士業を活用する場合、どのような視点で探すべきか
といった点について、相談に乗ってくれるでしょう。
専門家を活用した一歩進んだ士業の探し方
「専門家を選ぶ為に、専門家に相談する」と聞くと、ワンステップ増えてしまうイメージがあるかもしれません。しかし、士業について知識がなく、不安を抱えて悩むくらいであれば、よほど効率的です。
また、貴方が「士業に頼む分野」を決めた後は、「具体的に、どの人(事務所)に頼むか」という事を検討しないといけません。そして、実は、同じ士業であっても、人(事務所)によって得意とする分野は微妙に違います。しかし、慣れていない起業者にとって、それを見極める事は困難なのです。
ですから、起業の専門家に相談する場合には、こうした点についても具体的なアドバイスを貰うようにしてください。そうしたサポートを受ける事によって、貴方の「士業選び」の難易度は大幅に下がるでしょう。
ぜひ、この記事の内容を活かして、貴方にとってベストな士業と出会って下さい。
起業のおける士業など専門家の活用について(まとめ)
- それぞれの士業の種類については、大まかな知識を持っておくべき(それぞれの士業の詳細は、本文参照)。
- 全ての士業と契約する必要はないので、自分の起業にとって必要な士業を見極める事が大事。
- 貴方の事業にとって重要な分野については、必須ではなくても専門家の活用を考えるべき。それが、起業の成功に繋がる。
- それ以外の分野における士業の活用については、費用対効果で判断すれば良い。
- 士業選びについては、専門家に詳しい人(起業全般の専門家など)に手伝って貰う方法もある。