副業を始める人が知っておくべき知識
副業を推奨する機運は高まっています。ですが、良く解らずに副業を始め、人生を狂わせてしまう人もいます。
実は、副業には様々なリスクがあります。そして、副業を始めると、その副業に関係する事については、今の勤務先は守ってくれません。ですから、これから副業を始める人は、自分の責任において、しっかりとした知識を身につけ、また、準備をする必要があるのです。
また、副業には様々なタイプがあり、本人は副業のつもりでも、実質的には起業と変わらないケースがある事にも注意が必要です。
この記事では、「副業を考えている人が、知っておくべき知識」について解説します。
副業を取り巻く環境
2022年に副業を取り巻く環境は大きく変化しました。
政府は、2022年7月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン(2018年制定)」を改定し、企業が副業を制限する場合には、その理由を自社のホームページ等で公表するよう事を求めるようになりました。
その結果、53.1%の企業が副業・兼業を認めるようになったのです(認める予定の企業も含めれば70.6%)。
ちなみに、常用労働者数5000人以上の企業に限定した場合には、副業・兼業を認める企業の割合は66.7%となり、認める予定の企業も含めれば83.96%と8割を超えます。
※日本経済団体連合会が加盟社を対象に行った「副業・兼業に関するアンケート調査結果(2022年)」より。
ただし、副業を認める側の企業が副業に必ずしも詳しくなった訳ではありません。禁止したままでは不味いので、「とりあえず許容する事にした」というスタンスの企業も多く存在します。
副業する人が最初に知っておくべき事
副業する人が最初に知っておくべき事は、「勤務先が副業を許可しているからといって、どのような副業を行っても大丈夫な訳ではない」という事です。
「どのような副業であれば問題ないのか」という点については、個々に判断するしかありません。しかし、企業が従業員の副業を制限できる要件については、裁判例などから明確になっています。それは以下のような要件です。
・労務提供上の支障がある場合
・業務上の秘密が漏洩する場合
・競業により自社の利益が害される場合
・自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
※厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」より。
ですから、これらの要件にひっかかる可能性のある副業については、かなり慎重に検討する必要がある、という事になります。
特に、「現職(今の勤務先でのポジション)にいるからこそ出来る副業を行う場合」や「副業を熱心に行った結果、勤務先での仕事が疎かになる可能性がある場合」は危ないと考えて頂いた方が良いでしょう。
そして、貴方が始めた副業が会社にとって不都合なものであった場合、貴方の勤務先には様々な行動を起こす権利があります。
副業が認められる条件
副業を許している側の企業の意識
副業する人に対して、会社側が様々な懸念を持っている事は調査でも明らかになっています。
例えば、以下が、兼業・副業を許可した企業(副業する人を送り出す側の企業)が懸念している点となります。
・労働時間の管理・把握ができない
・本業に支障が出る
・従業員の長時間労働・過重労働を助長する
・情報漏えいのリスク
・労働災害の場合の本業との区別ができない
・パフォーマンス面で本業へ影響を与える
・時間面で本業へ影響を与える
・競業となるリスクや、利益相反のリスク
・人手不足や人材の流出につながる
※リクルート「兼業・副業に関する動向調査データ集2021」より。兼業・副業を認める人事制度がある企業の20%以上が課題として回答している点をリストアップ。
ですから、これらの点で勤務先から懸念を持たれるような事があると、貴方は現在の勤務先から目を付けられる(場合によっては、ペナルティを受ける)可能性が高いのです。
副業が原因で大変な事になった事例
実際に副業が問題視され、訴訟沙汰にまでなったケースも存在します。
事例のいくつかをご紹介しましょう。
・競業他社の取締役に就任した従業員が懲戒解雇された(裁判所も「経営上の秘密が漏れる可能性がある」などとして解雇を容認)。
・就業時間外に深夜まで副業をした従業員が解雇された(裁判所も「就業時間中の勤務に支障をきたす可能性が高い」などとして解雇を容認)。
※判例をもとに筆者編集。
ですから、勤務先が副業を許可している場合であっても、それは「条件付きで副業が許可されている」という事であると考え、自分自身で問題がないかどうかを十分に検討する必要があるのです。
そして、副業は会社の外での活動ですから、会社は貴方を助けてくれません。それどころか、会社は「副業によって、貴方が会社の利益を害するかもしれない」という事を理解しています。
ですから、副業を始める際には、会社の中で行う活動とは違う意識をもって検討や準備を行必要があります。
副業の3つのタイプ
「リスクの大きさ」や「気をつけるべき点」から、副業は3つのタイプに分ける事が出来ます。
受け身で良い副業
1つ目のタイプは、「基本的には、ほとんど何もしなくても収入が得られる」タイプの副業です。
例えば、「不動産収入(マンションの部屋などを貸して家賃を得る)」や「投資収入(株などで儲ける)」などです。
このタイプの収入は、ほとんどの職場で問題とはされません(公務員など一部の職場では問題となる事があります)。税金面やインサイダー取引などの面で問題を起こさないようにさえ気を付けて頂ければ、注意して頂く事はありません。
勿論、収益が実際に得られるかどうかは別問題です。十分な事前学習をしたり、専門家のサポートを受けたりしてから始める事をお勧めします。
単発取引の副業
2つ目のタイプは、「余力の範囲で単純な作業を行う」タイプの副業です。
例えば、「空き時間を使って完了できそうな依頼があった場合のみ、自宅で出来る作業を請け負う」といったタイプの副業です。自分で商売を行う場合であっても、うまく仕事量がコントロール出来るのであれば、このタイプに含める事が出来るでしょう(納期が厳しくない商売など)。
このタイプには、「副業によって発生する負担を、自分でコントロールできる」という特徴があります。
従来、多くの会社が想定してきたのは、このタイプの副業です。副業を認めている会社において、このタイプの副業を行いたいのであれば、情報漏洩や勤務先での仕事に悪影響が出ないように気を付けて始めるようにして下さい。
事業としての副業
3つ目のタイプは、「責任が伴う仕事を請け負う」タイプの副業です。
副業先で責任ある仕事を任されたりする場合には、このタイプの副業に該当します。
また、自分で商売を行う場合で、「日々、収益拡大の為の活動を行う場合」や、「継続的に、問い合わせや出荷・納品に対応しないといけない状態が想定される場合」には、このタイプに該当します。
近年、急激に増えているタイプの副業です。
このタイプの副業は、副業によって得られるものが大きいため、副業するメリットも大きいと言えます。
その一方、「勤務先での仕事(本業)と副業のどちらの活動が生活の中心なのかが曖昧になりやすい」という特徴を持っており、「本業に集中出来なくなる可能性」があります。
ですから、このタイプの副業は、「勤務先との間でトラブルが起きる可能性が高い」と理解して下さい。
もし、このタイプの副業を始めるのであれば、最低でも、「会社員生活との両立を可能にする為の仕組み」を事前に準備するべきです。もし、それが用意できないのであれば、このタイプの副業は止めておいた方が無難です。
副業としての事業内容についてのおすすめ
もし、貴方が「副業したいが、何をするか決まっていない」状態なのであれば、事業内容を検討しなければなりません。
良く聞かれるのは、「貴方の経験や強みを活かせる仕事が良い」というアドバイスです。しかし、そのアドバイスは、そのままの意味では受け取らない事をお勧めします。
なぜならば、「貴方の経験や強みを活かす」という事を素直に考えた場合、「貴方の現職での経験や、今の職場で得られた強みを活かす」という考え方をしてしまう可能性が高いからです。
そして、その方向性での副業に、「勤務先との間でトラブルになりやすい」という問題点がある事は前述の通りです。
また、その問題がクリアされたとしても、勤務先の仕事の延長線上での副業は、「気分が切り替わらないので、副業のモチベーションが上がりづらい」や「本業と副業で、忙しい時期が揃いやすい」といったデメリットがあり、お勧めし辛いのです。
ですから、副業の仕事内容を新規に考えるのであれば、「本業とは関係ない視点で考える」事をお勧めします。
例えば、学生時代に打ち込んだものや趣味があれば、そういった所から考えてみるのも良いでしょう。今の勤務先で活かせていないスキルがあるのであれば、それを活用する事もお勧めです。
なお、現在の勤務先で活かせていない経験やスキルは、本人も忘れてしまっていたり、自分では気付けていなかったりする事も多いものです。ですから、「そんなものは自分にはない」とは考えず、じっくりと探してみる事をお勧めします。
副業を失敗させない為のアドバイス
最後に、副業を失敗させない為のアドバイスです。
副業は、うまく本業と両立させる事が出来れば、収入面の改善効果だけでなく、自分を高める事にも繋がります。
しかし、前述の通り、副業には様々なリスクがあります。ですから、副業を始めるのであれば、必要な準備をしっかりと行った上で始めるようにして下さい。必要に応じて、専門家の活用も検討するべきです。
特に、貴方の副業が、以下のいずれかに該当する場合には、自分一人だけで準備を進める事はお勧めできません。
- 副業の仕事内容が決まらない場合
- 本業との関係が否定できない場合
- 事業としての副業を始める場合
以下、それぞれの点について解説していきます。
副業の仕事内容が決まらない場合
1点目は、副業の仕事内容が決まらない場合です。
ある程度、自分一人で考えても、「副業の仕事内容が決まらない場合」には、無理に考え続けない事をお勧めします。
そのまま検討を続けても、「貴方がモチベーション高く続けられる」や「十分な収入が期待できる」などの条件を満たした候補が上がる事は稀です。
ですから、副業の仕事内容が決まらない場合には、「貴方が気付いていない可能性(経験、強みなど)」を見つけ、それを「収益を上げやすい副業」と繋げる為に、第三者の力を借りる事をお勧めします。
本業との関係が否定できない場合
2点目は、本業との関係が否定できない場合です。
この記事の前半で取り上げた通り、本業との関係が否定できない場合には現在の勤務先との間でトラブルが起きる可能性が高くなります。
特に、貴方が行う副業が、「現職だからこそ出来るものである場合」には、「勤務先のノウハウを、貴方個人の商売の為に使っている」と疑われたり、「勤務先の仕事を貴方が奪っている」と疑われたりしてしまう可能性があります。
そして、勤務先とのトラブルが現実のものとなった場合、貴方の人生計画すら狂ってしまう危険性があります。貴方が始めようとしているのは、あくまで「副業」です。本業の立場を危うくするような事はするべきではありません。
ですから、本業との関係が否定できない副業を予定している場合には、事前に「どのようなリスクが想定されるのか」や「どのようにリスクを避ければ良いのか」を専門家に相談しておく事をお勧めします。
事業としての副業を始める場合
最後の3点目は、事業としての副業を始める場合です。
貴方が始める副業が「自分で商売を始めるタイプ」である場合は勿論ですが、貴方が始める副業が従業員に近い立場で仕事を行うものであっても、収益向上の為に依頼主や仕事量を増やす活動を行う場合には、事業としての副業に含まれると考えて下さい。
そして、事業としての副業を始める場合には、「副業だから気軽に始めて良い」という考え方は捨てて下さい。
最近は、副業であっても、しっかりとした帳簿を付けたり、複雑な手続きをしたりする必要性が高まっています。この為、事業としての副業を始めるのであれば、起業と同じ水準の準備が求められると理解するべきです。
また、リスクを回避する為には、本業との両立を可能とする為の「ビジネスの仕組み」も準備しておくべきです。
具体的には、繁忙期を想定して「業務をアウトソース(外注)できる用意をしておく」や「業務の自動化を進めて、労力がかからないようにする」などが、本業と両立させる為の仕組みの一例となります。
今は様々な技術がありますし、サービスも発達しています。ですから、ビジネスモデルを工夫する事で、以前であれば「本業としてでしか出来なかったビジネス」であっても、副業として実現させる事は可能になっています。
ただし、難易度は高くなりますので、ビジネスの立ち上げに自信がある人を除いて、起業の専門家への相談をお勧めします。
副業を相談する専門家の選び方
副業を専門家に相談するのであれば、前項で解説した3つのポイントのうち、副業を始める貴方が関係するポイントを強みとしている専門家に相談する事をお勧めします。
例えば、「副業の仕事内容が決まらない場合」であれば、起業する事業内容の検討を支援している専門家、「本業との関係が否定できない場合」であれば、副業する人を送り出す側の事情に詳しい専門家、「事業としての副業を始める場合」であれば、起業する事業の立ち上げに詳しい専門家が相応しいでしょう。
もし、自分で商売を始めるタイプの副業をお考えであれば、当センターの相談もご活用下さい。
当センターでは、起業支援の一環として、副業に関する支援もさせて頂いております。そして、当センターでは、経営支援や新規事業立ち上げ支援の専門家と協力しながら支援を提供しておりますので、幅広い相談に対応する事が可能です。
最終更新日:2023年3月9日